グランジ三バンドのRNT的分析(スマパンを中心に)
Relational Noise Theory – Applied Example: Grunge Triad with Smashing Pumpkins Focus
ここではRNT批評の応用課題としてスマパンを中心としたグランジ3バンドの総括を試みる。
ポイントは正負双方向の帰還(差異生成とその抑制)、すなわち音楽構造体としてのフィードバックの可否が、バンドをどのように方向づけるか、にある。
スマッシング・パンプキンズのRNT的分析
基本的視点
- バンドの中心ビリー・コーガンは 「差異の人」。デビュー前からジャンル横断的嗜好を内包しており、メタル的厚塗り、シューゲイズ的質感、ニューウェーブ、アコースティック志向など多方面に開かれていた。
- この資質は RNT 的に「関係内部に潜在する差異」を掘り起こす性質と親和的。
- しかし、その差異を 循環に翻訳する負の帰還設計 が構造化されなかったため、差異は持続的更新につながらず、最終的に「スマパン様式」として固定化された。
アルバム史に沿った整理
インディー~メジャー(Gish, Siamese Dream)
- 厚塗りのギターと多層音響。耽美と攻撃性を同居させる差異を提示。
- コーガンの嗜好が多方向に顕在化。
- ただし差異は早くも「コーガンの音」に一極化し、分散的運用は弱い。
多量生産と大作主義(Pisces Iscariot, Mellon Collie and the Infinite Sadness)
- メロンコリーは2枚組28曲の超大作。差異を大規模に「加算」し、市場を大きく揺さぶる。
- 差異投下=正の帰還は爆発的だった。
- 膨大なボリュームのB面曲集やアウトテイクの発表も差異の生成・拡大を広げる。
- しかし抑制や調整の負の帰還が欠如し、様式化の兆候が生まれる。
転換期(Adore)
- ドラマー不在の中、エレクトロニカやアコースティックを全面採用。
- もともと潜在していた嗜好の顕在化でもあるが、急な作風の変化は差異化自体が目的化したものと受容される。
- そのため差異が差異として機能せず、作品強度も相対的に弱体化。
- 転換はバンドの更新に結び付かず、スマパンというブランドとして様式を固定させた。
模索~縮小再生産へ(2000年代以降)
- Machina, Oceania, Cyr などで方向を模索。
- 電子音導入や過去様式の再演が続いたが、差異の投下は縮小化。
- 循環は持続しているものの、更新よりもブランド的持続に寄った。
メンバー編成における差異
- ジェームス・イハ:日系ギタリスト。抑制的なギターが厚塗りとの対照を生んだ。
- ダーシー・レッキー:女性ベーシスト。ジェンダー的多様性を付与し、音像下層を安定化。
- ジミー・チェンバレン:ジャズ/フュージョン由来のドラマー。オルタナ標準を超える複雑な推進力を持ち込んだ。
- ビリー・コーガン:甲高い声や外見も含め、典型的ロック像から外れた異質性を帯びていた。
→ バンド自体が「多様な差異の集合体」であった。
課題:差異の回収
- 多様な差異を持ちながらも、主体を分散化させる負の帰還の制度設計が欠けていたため、それを循環化させられなかった。
- 多様性はバンドの資質として存在したが、差異が差異のまま活かされる回路は整備されず、「コーガンの音」として収束。
- ひとことで言えばバンドを信頼できなかったことに尽きる。コーガンは自らの差異生成能力に溺れた。
Nirvana
- 可能性
- 一点突破的な差異生成力で、既存の秩序を一気に揺さぶる強度を持っていた。
- 「静—爆」の音響ノイズによるダイナミクス設計は、最小要素から最大効果を生むモデルとなり得た。
- Cobainは負の帰還の必要性を直感的に理解し、Pat Smear の加入やメディア対応で責任の分散を模索していた。
- 課題
- 差異の即効性ゆえに、市場からの強烈な正のフィードバックを制御することが困難だった。
- 個人の感受性に依存しており、負の帰還を制度として構造化する前に破綻に至った。
Pearl Jam
- 可能性
- バンド内の合奏力と共同性に基づき、差異を小規模に継続的に生成できた。
- ライブでの日替わりセットや構成伸縮、ファンクラブやブートレグの制度設計により、循環を長期的に安定させる力を持っていた。
- 負の帰還を制度化する点では最も強固で、持続的な関係更新のモデルを提示。
- 課題
- 差異生成力そのものは控えめで、NirvanaやSmashing Pumpkinsのような大きな基準転換を起こす力には欠けた。
- 革新の派手さが薄く、持続の美学が時に「地味さ」として保守的に評価される側面があった。
RNT的まとめ
- Smashing Pumpkins:多様な差異を抱えていたが、内部で循環化できずコーガンのヴィジョンに回収された。
- Nirvana:差異の即効力に優れるが、外部循環の圧力を抑制できなかった。
- Pearl Jam:差異の規模は小さいが、負の帰還を制度化し長期循環を実現した。
👉 三者はいずれも「差異と帰還の設計」という課題に直面し、それぞれ独自の可能性と限界を示した。
これらは 「三極の緊張関係」 として歴史的に並置でき、「差異の生成と循環の関係性」、すなわちフィードバックの可否が音楽実践の行方を方向づけることを明らかにする。
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