アルティメット・インストゥルメント(UI)は、20世紀実験音楽の多様な流れを批判的に継承しつつ展開される。
その背景には、図形楽譜、行為記譜、非決定性スコア、そしてフィードバック実践といった複数の試みがある。
これらはいずれも既存の音楽秩序を相対化し、音楽を「関係としての生成」へと開く契機となった。
ただし、それぞれの実践が内包する方向性は一様ではなく、外部的偶然性の重視から内部的関係構築へ至るまで、幅広いスペクトルを持っていた。
Earle Brown《December 1952》などに見られるように、記譜を線や図形に置き換えることで、演奏者の解釈に余地を与えた。
この実践は、演奏を単なる再現ではなく、関係的な場の生成として提示した点で画期的である。
ただし、多くの実践では明示的な循環構造やフィードバック設計は稀であったように見える。
一方で、Brown自身や同時期の一部作曲家は、合奏内の相互参照的な合図や、演奏者間の聴取に基づく準フィードバック的な構造を試みてもいた。
こうした萌芽的な循環性は、後の関係論的発想を先取りするものである。
John Cage《Water Walk》や Fluxus のイベント・スコアでは、音そのものではなく行為や環境との関係が前景化された。
これにより「音楽=音」という定義は拡張されたが、しばしば外部性や偶然性を強調した側面があり、とりわけ一部作品では外部からの出来事や素材が重要な役割を果たした。
ただし、Cageの後期作品群では構造化された偶然性——枠組内での選択や時間軸の設計——も併存しており、単純に「外部依拠」とは言い切れない。
Fluxus的文脈でも、日常行為の反復や環境への応答が内部規範化された聴取を促す場合があり、関係的循環への接続点を含んでいた。
Cage《Concert for Piano and Orchestra》などは、偶然や即興を積極的に取り込み、音楽の秩序を流動化させた。
この「不確定性」は、演奏結果を固定しない柔軟な構造をもたらしたが、同時に「偶然」を外部的契機として扱う傾向も残した。
ただし、Cageの時間構造理論や、Christian Wolffの相互依存規則(Mutual Dependence Rules)などは、関係内部に即興的判断を位置づけようとする方向を示しており、内部循環的な試みの萌芽とみなすことができる。
David Tudorのライブ・エレクトロニクスにおける音響的フィードバックは、RNTに直結する重要な系譜を形成する。
彼の実践では、音響装置の出力が再び入力へと戻り、制御不能なゆらぎを生じさせた。
その一方で、制御主体の拡散という問題も同時に現れた。
誰が制御し、誰が応答しているのかが曖昧になるとき、フィードバックは持続的な更新ではなく、無限拡散的な不安定性へと傾く。
しかしTudorの活動は、機材設計や調整を共同的プロセスとして実践した点においても注目される。
この「共同構作性」は、制御と応答を分担する関係回路を構築する前提条件であり、後のUI的構想に通じる重要な契機である。
これらの実験的実践は、音楽を関係的に再定義する方向を切り開いた点で決定的に重要である。
ただし、それぞれが抱えた課題——外部性への依拠、偶然の制度化、責任の拡散——は、関係生成の仕組みを内在的に設計するうえで再考を要するものであった。
RNTはそれらを参照して、外部や偶然を関係循環の内部差異として再編成し、フィードバックの拡散を制度的に統御する視点を提示する。
この立場において、UIは20世紀実験音楽の成果を批判的に継承しつつ、その限界を更新する実践として位置づけられる。
補注:Oliveros(Deep Listening における「注意の規範化」)、Wolff(相互依存規則)、AMM(聴取態度の内在化)などは、外部的偶然を超えた内部循環の萌芽を示す重要な事例である。
UIはこの系譜を踏まえつつ、関係論的ノイズ論(RNT)に基づいて再定義される。
その特徴は、RNTの三原理に即して整理できる。
UIにおける楽譜は静的な指示書ではなく、演奏の中でリアルタイムに変容する装置である。
ノイズは外部の侵入ではなく、関係循環そのものから立ち上がる差異として現れる。
Cageが「偶然性」を重視したのに対し、UIは楽器・楽譜・演奏者・環境が相互に干渉するフィードバックを核に据える。
Tudor《Rainforest》の「装置群の共鳴体」を継承しつつ、スコア自体が変容する制度的機構として拡張する。
ここでの循環は無限拡散ではなく、負の帰還を含む自己更新系として構築される。
UIにおける即興は「構造なき自由」ではなく、差異への応答として構造にリアルタイムで介入する行為である。
その意味で、即興は恣意的な創作ではなく、関係の更新を担う設計的契機として理解される。
UIは、20世紀実験音楽が提示した
を受け継ぎながら、RNTの三原理(ノイズ/即興/フィードバック)によってそれらを統合する。
その到達点は、演奏と楽譜の同時生成にある。
すなわち、演奏・記譜・聴取・環境のすべてが関係循環の中で相互規定され、秩序が生成し続けるプロセスそのものがUIの本質である。
この意味で、UIはRNTの理論を実践的に展開する「器(インストゥルメント)」として機能する。
RNT=理論
UI=実践的フレームワーク両者の循環が、関係生成としての音楽を現実化させる。